もし、飛び立つ瞬間の鳥を撮影した一枚の写真があるとしたら。それを見て涙する者の感情を揺さぶったものは何なのだろう。

 きっと答えは出ない。『リズと青い鳥』は、まさに鎧塚みぞれと傘木希美という鳥の一瞬をバインダーに収めた――誤解を恐れずに言うのであれば、ただそれだけの作品なのだと思う。



(以下ネタバレを含みます)

 映画やアニメは基本的にエンターテイメントで娯楽だと思っている僕にとって、『リズと青い鳥』は真正面から面白いと言える要素に乏しい作品だったと思う。その要素を書き連ねながら感想を語りたい。
(一度視聴しただけの記憶頼りなので多分に不確実な情報が交じる可能性があります)


・絵が違う(可愛くない)
 「可愛くない」はちょっと言い過ぎだ。ただ、テレビ放送版に比べると目が小さく、等身も高い。PVなど事前情報を一切頭に入れずに見に行ったので、なおさら随分と変わった印象を受けた。
 勿論のこと悪い変化ではなくて、作品の雰囲気にはこちらのほうがあっていると多くの人が感じるだろう。ただ、それはエンターテイメントの方向ではないように思う。
 キャラの造形について強く印象に残ったことがある。みぞれは「あまり可愛くない女の子」として描かれていたのではないか、ということだ。(TV版でどうだったか定かではないが)今回の彼女は常に「髪がボサボサ」で、オシャレで可愛い後輩の剣崎梨々花と対照的に感じた。
 もっと穿った見方をすれば剣崎梨々花はそのためにいるのではないか。全体的に大人しめな印象を受ける今回の映画の中で、彼女だけは「キラキラした可愛い女子」を詰め込んだようなキャラクターとして描かれていたように思える。たびたびみぞれが「剣崎」と間違えて呼ばれかけるのも、周囲が抱く印象の違いを表現したものだったのかもしれない。


・話の中身が薄い
 リズと青い鳥は90分の映画だが、内容としては15分程度のものだったと思う。プールのシーンがカットされた時は「サービスシーンは見せないぞ」という製作者サイドからのいじわるかとも思ったが、あがた祭やオーディション、およそ「物語」として重要な転機や見せ場になりそうなイベントは全て排除されていた。画面に描かれるのは終始みぞれと希美のやりとりと細かな表情の変化、せいぜいそこに優子と夏希や一部の後輩たちが加わるくらいのものだ。それ以外の要素は(もしかしたら必要最低限のラインを超えて)削ぎ落とされている。
 その一方で、直接には関係なさそうなリズと青い鳥のシーンがしばしば挿入される。ここは寓話にすぎないのだから、物語を進める上で必要不可欠な要素とは思えない。実際、前半は「この寓話いるの?」という気分で見ていたが、みぞれと希美の心理描写の描くことに徹底したこの映画は、リズと青い鳥の寓話によってそれらを補強する。
 映画の中では何も起きていない、とさえ言える。イベントは基本的にスルーされているし、事件らしい事件もない。コンクールは勿論のこと、合奏の場面すら(極めて重要ないくつかのシーンを除いて)ほとんど描かれないのだから。


・何も解決していない
 事件が起きていないから当たり前という気もするが、この話には解決課題のようなものが描かれていない。あるいは、それは解決不可能なものとして描かれているというべきかもしれない。それはみぞれと希美の間に(TV版の頃から)ずっと横たわっていたもので、それが少しずつ表面化していくにすぎない。最後まで二人の間にある、決定的な隔たりが解消されることはない。ただそのことが淡々と描かれていく。
 希美に依存するみぞれ。自己完結してしまう希美。それは最後まで変わらない。青い鳥であるみぞれは希美を自ら手放すことはないし、青い鳥である希美は一人で飛び立たなくてはいけない。映画後半、すれ違う二人の会話は互いにリズとしての相手に語りかけていたように思う。
 この映画では山場のある1つの「物語」ではなく、二人のすれ違いだけが淡々と描かれている。



 一言で言ってしまうなら、『リズと青い鳥』はある女の子たちの人生の一部をただ切り取っただけの、一枚の写真のような作品なのだと思う。この写真はどういうわけか、僕たちの心を強く揺さぶる。僕たちの心を揺さぶる一枚の写真(のような女の子たちの人生の一部)を切り取ること、徹頭徹尾それをやりきったところが、この作品の魅力であり凄さなのだと思う。
 ある人は「青春だね」と言うかもしれない。別の人は「百合だね」と言うかもしれない。それはそれで間違っていないと思う。一枚の写真からは何を読み取ることも出来るだろうから。それでも、僕はそこに「何か」が描かれているわけではない、というところにこそ、『リズと青い鳥』の本当の魅力があるように思う。



 鳥が飛び立つ一枚の写真の前。「綺麗だね」「美しいね」というギャラリーの声を後ろに聞きながら、ただ立ち尽くして咽び泣く。『リズと青い鳥』はそんな映画でした。





 P.S.
 「gdgdやってないで早く音楽やれよ」みたいな感じの麗奈最高でした。

 あと優子が「高坂!」って言うまでガチでただのモブだと思ってましたごめんなさい。